いま、世界のドライエイジングの技術はどうなっている?
じつは「ドライエイジング」には、いくつかの熟成の類型があります。日本ならではの熟成方法としては、昔から「枯らし」または「吊るし」と呼ばれる技法がとられてきました。
枝肉、または大分割した塊肉を吊るしておくやり方で、水分が少なくサシの多い和牛を熟成させるのに向きます。
しかし、やがて真空パックが普及すると、肉を真空パックに詰めて、水分を飛ばさずに熟成させる「ウェットエイジング」が主流に。
鮮度や日持の良い状態で流通させることができて、保存もきくことから広く普及しました。
欧米の熟成方式
フランスやイタリアでは、日本と同じように真空パックでの熟成肉が流通しつつも、昔ながらの「ヨーロピアンスタイルDAB」が根強く残っています。
枝肉、または大分割した肉を長期間、乾燥した状態で熟成させる方法で、主に精肉店で受け継がれています。
そしてアメリカでは、「ヨーロピアンスタイル」をルーツにした、「NYスタイル」と呼ばれる方式が打ち出されました。
骨付き肉をダイレクトに熟成庫へ搬入し、強い風を当てて、微生物の付着を促しながら熟成する方法です。
30数年前のニューヨークでは、限られた店で見かける程度だったドライエイジングビーフですが、徐々にその味わいが市民権を得て、年々広がっており、
レストランだけでなく、高級スーパーでも取り扱われるようになりました
注目は「NYスタイル」
日本の精肉関係者の間でも「NYスタイル」のおいしさは評判になります。
2008年、静岡県富士宮市の「さの萬」が、特注の熟成庫を用いた「NYスタイル」の「DAB」づくりに成功。
追随する業者も出てきました。
やがて、熟成肉人気の上昇と共に、「ウェットエイジング」と「NYスタイル」を組み合わせた方法も登場。
真空パックにした肉を、NYスタイルの条件で追熟する方式ですが、それではNYスタイルならではの独特な味に仕上がりません。
「日本ドライエイジングビーフ普及協会」が現在、推奨しているのは、純粋な「NYスタイル」。
ほかの熟成方法の牛肉とは、明らかに異なるおいしさがあります。
ドライエイジングの類型
NYスタイルDAB
いま大人気!
基本的に枝肉から骨付き肉を分割後、熟成庫にて骨付きロースを一定の温度と湿度で強い風を当て、微生物の付着を促しながら熟成する。
特有の旨味の凝縮とフレーバーと柔らかさがある。
ヨーロピアンスタイルDAB
枝肉、または大分割した塊肉を長期間、乾燥状態において熟成する。
NYスタイルのような強いフレーバーはないが、独特の熟成香と柔らかさがある。
枯らし・吊るし熟成
日本式の熟成方法。
枝肉、または大分割した肉を冷蔵庫に吊るし、風を当てずに熟成する。
微生物の付着がみられる場合も。
柔らかさと独特のフレーバーが形成される。
ウェットエイジング + NYスタイルDAB
品質に要注意
真空パックにした状態のボックスミートを開封し、NYスタイルの条件に整えた熟成庫内に置いたもの。
官能評価的にはDABに近いと言えるものもあるが、不十分なものもよく見られる。
NYスタイルのDABの味には4つの特徴があります
NYスタイルのDABは、ひと口食べればはっきりわかる味の特徴が4つあります。
1つめは、「テンダネス(柔らかさ)」。サシの多い肉の場合、加熱して脂が溶けることで物理的に柔らかくなりますが、DABの場合は違います。
牛肉の酵素には、たんぱく質を分解する働きがありますが、ドライエイジングすると分解のスピードが速く、かつ強くなり、その作用で筋繊維がもろくなって肉質が柔らかくなるのです。
サーロインの筋切りをしなくても噛み切れてしまうほどです。
2つめは、「フレーバー(特有の風味)」。きちんと熟成されたDABには、「ナッティフレーバー」と呼ばれる、ナッツのような甘く芳醇な香気があります。
3つめは、「テイスティ(旨み)」。酵素がたんぱく質を分解することで、テンダネスと共に旨み成分のアミノ酸が生まれます。
DABはその量が通常の熟成と比べものにならないほど多く、自由水が外にでると共に圧倒的な旨味を楽しめるのです。
4つめは、「ジューシー(本来の水分)」。DABは細胞内に水分を蓄えたまま熟成する技術。
だから口にしたときに、脂ではない、肉本来の瑞々しいおいしさを感じられるのです。
ドライエイジングビーフのおいしさの科学的分析
牛のサーロインを屠畜後10日目のものと熟成40日後のものとを比較
遊離アミノ酸分析:HPLC法 (単位:mg/100g)
検査成分 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 | 食味要素 |
---|---|---|---|
アスパラギン酸 (3mg/30%) | 3.2 | 24.8 | 酸・旨味 |
グルタミン酸 (5mg/20%) | 12.2 | 28.7 | 酸・旨味 |
グルタミン (250mg/30%) | 89.5 | 210.8 | 微甘・旨味 |
アスパラギン (100mg/30%) | 2.7 | 18.6 | 酸味 |
検査成分 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 | 食味要素 |
---|---|---|---|
グリシン (110mg/10%) | 8.9 | 22.5 | 甘味 |
アラニン (60mg/10%) | 23.1 | 56.1 | 微甘味 |
トレオニン (260mg/7%) | 3.8 | 22.4 | 微甘味 |
セリン (150mg/15%) | 3.3 | 18.6 | 微甘味 |
プロリン (300mg/50%) | 2.9 | 8.3 | 微甘味 |
検査成分 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 | 食味要素 |
---|---|---|---|
メチオニン (30mg/15%) | 3.1 | 39.3 | 風味 |
リジン (リジン塩酸塩:50mg/20%) | 12.4 | 31.6 | 微風味 |
イソロイシン (90mg/15%) | 5.1 | 16.2 | 微苦味・微風味 |
ロイシン (380mg/10%) | 10.4 | 29.6 | 微苦味・微風味 |
フェニルアラニン (150mg/20%) | 4.6 | 26.6 | 微苦味・微風味 |
チロシン | 36.7 | 22.3 | 無味無臭 |
バリン (150mg/30%) | 6.5 | 6.2 | 微苦味・微風味 |
ヒスチジン (20mg/50%) | 3.4 | 13.9 | 微苦味 |
アルギニン (10mg/20%) | 24.8 | 63.1 | 風味 |
システイン | 37.6 | 2.3 | 無味 |
検査成分 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 | 機能・作用 |
---|---|---|---|
タウリン | 22.1 | 30.1 | 旨味補助・血糖値低下等 |
オルニチン | 0.5 | 2.4 | 基礎代謝の向上、脂肪燃焼 |
GABA (γ-アミノ酪酸) | 0.0 | 7.2 | 脳細胞代謝活性化 |
検査成分 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 | 機能・作用 |
---|---|---|---|
カルノシン | 368.5 | 184.3 | 抗酸化作用 |
アンセリン | 61.8 | 50.8 | 抗酸化作用 |
ペプチド構成アミノ酸総量 | 917.9 | 797.2 |
食味要素 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 |
---|---|---|
うまみアミノ酸 | 107.6 | 282.9 |
甘みアミノ酸 | 42.0 | 127.9 |
風味・苦味アミノ酸 | 144.6 | 251.1 |
特定機能性アミノ酸 | 22.5 | 39.7 |
遊離アミノ酸総計 | 316.7 | 701.7 |
※うまみ成分:遊離アミノ酸は食品のうまみ・甘みなどの味わい(呈味)に重要な要素です。
食感・ジューシーさ (物理特性)
※テンシプレッサーによる食感(テクスチャー)計測値は、肉の加熱状態での柔らかさ、歯応え、弾性、咀嚼正(噛み応え)の特性を示しています。
物理特性 | 屠畜後10日目 | 40日間熟成 |
---|---|---|
噛み切り硬さ・破断応力 (Tenderness)(gf/cm^2) | 3.04E+04 | 3.74E+04 |
柔軟性・しなやかさ (Pliability) | 1.73E+00 | 1.55E+00 |
歯応え・噛み応え (Toughness,gf/cm^2・cm) | 1.29E+08 | 1.74E+08 |
脆さ (Brittleness) | 1.32E+00 | 1.37E+00 |
水分 (%):水分が多い程、脂肪分が少ない | 70.6 | 70.8 |
伸展率 (%):噛みしめた際の軟らかさ、大きいほど軟らかい | 16.2 | 18.8 |
加圧保水力:肉汁の保持力、大きい程風味が良い | 82.0 | 87.0 |
圧搾肉汁率 (%):ジューシーさ(大きい程多汁) | 40.9 | 35.1 |
加熱損失率 (%):小さいほど良好、大きい程肉汁流失大 | 22.9 | 24.6 |
※上記の科学分析結果はビューローベリタスジャパン株式会社の調査によるものです。